—研削盤特別教育の実技を、企業設備に合わせて成立させる—
研削盤を扱う現場にとって、砥石の破損や飛散は取り返しのつかない重大事故につながり得る。そこで重要になるのが、法定の「特別教育」だ。
今回は、研削盤に関わる特別教育を提供する担当者に、「そもそも特別教育とは何か」「実技では何を身につけるのか」「なぜ会社ごとに内容が変わるのか」を聞いた。
Q1:そもそもこの「特別教育」って、法定の講習なんですか?
記者:この特別教育は法定で定められた講習なのでしょうか。
担当:はい。安全衛生法第59条3項の「特別教育」と呼ばれるものです。
Q2:実技講習って、結局「何をできるようになる」ためのものですか?
記者:座学はイメージできるのですが、「実技」がよく分かりません。実技のゴールは何でしょう。
担当:一言で言うと、安全に試運転を行えるようにすることです。
試運転が適切にできれば、砥石破壊などの重大トラブルはかなりの確率で防げる。実技講習の最終目的は、そうした事故を未然に防ぐ技能を身につけることにあります。
記者:試運転のために、どんな力が必要になりますか?
担当:大きくは3つです。
1つ目が砥石を安全に使用する技能、2つ目がフランジを安全に使用する技能、3つ目が研削盤を安全に使用する技能。
この3つのどれか1つでも欠けると、試運転はうまくいきません。
Q3:実技では具体的に何をやるんですか?
記者:試運転が肝なのは分かりました。実技としては何を実施するのでしょう。
担当:試運転に必要な不具合・問題に気づくため、実技は主に次の5項目で組み立てます。
実技で扱う「4つの項目」
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砥石の適正確認+打音検査・外観検査
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砥石のバランス取り(静バランス/動バランス)
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砥石とフランジの合わせ込み及びフランジ付き砥石の交換(研削盤への着脱)
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研削盤の点検+研削盤の試運転
担当:この1〜4はどれも重要です。ここを「まあいいか」で済ませた結果、事故につながっているケースは少なくありません。
Q4:その中でも、現場がつまずきやすいポイントはどこですか?
記者:4項目の中で、特に“落とし穴”になりやすいところはありますか?
担当:まず適正確認の話から。
ここで大事なのは、砥石が壊れていないか以前に、砥石の最高使用周速度などが機械に適合しているかという適正確認です。
そもそも不適正な砥石を、打音や外観で丁寧に確認しても意味がありません。
記者:バランス取りはどうでしょう。
担当:バランスは静バランスと動バランスがあります。
法令が作られた背景もあって、静バランス中心でスケジュールが組まれがちですが、静バランスの安全が確認できた後は、動バランスの考え方も取り入れて試運転につなげるのがよい、という問題意識を持っています。
記者:研削盤の点検も気になります。
担当:もし砥石に問題がなくても研削盤に問題があれば試運転に問題が発生します。特に砥石カバーは作業者を守ってくれる重要部品なので、適切かどうかを確認し、その上で試運転へと進みます。
Q5:会社によって講習内容が変わるって聞きました。どんな差が出るんでしょう?
記者:自社で扱う研削盤や使用機器で講習が変わる、と。具体的にどんな差ですか?
担当:大きく2点です。
1つは研削盤の種類。たとえば円筒研削盤、平面研削盤など、構造が違えば試運転の方法も変わります。
もう1つはサイズで、砥石の外径=砥石の大きさが変わる。すると交換方法や扱い方も変わります。
だから私たちは、種類とサイズに応じて、特に実技講習の内容やスケジュールを組み立てることをポイントにしています。
Q6:自社内で講習することも可能ですか?「自己流」のメリット・デメリットは?
記者:社内実施もできると聞きました。難しいのでしょうか。
担当:簡単か難しいかは主観もあります。ただ客観的に言うなら、指導の下であれば、法令が要求している内容を確実に実施できる、これが大きい。
実際、「何を学ぶのか」「何を手に入れるのか」が分からないまま社内でやろうとして、結果的に要点が抜けてしまうケースが多いと思います。だからこちらでプログラミングしてスケジュールを作り、コンテンツやデータとして提示します。それに沿って進めていただければ、講習はきちっと完了できる、という考え方です。
Q7:一度受けたら終わり?改訂や時代変化で“取り直し”は必要ですか
記者:もし一度受講した場合はもう受講しなくてもOKなんでしょうか?
担当:国家資格とは違って安全教育です。理想を言えば、できる限り毎年のように受けていただくのが望ましい。
法律上は「一度受けた」でも問題ない面はありますが、今は本人の自己申告だけでは足りず、修了証を明確に提示できないと監督署が納得しないことがあります。
修了証がない場合は、改めて受けるのが現実的です。前年受けた方がまた受けるのも、悪いことではありません。
Q8:どんな業界に必要?最近増えている業界はありますか
記者:では最後に安全講習の受講が必要な業界はどんな業界ですか?
担当:研削盤を持つところであれば、自動車、家電、弱電電子部品など幅広く必要です。
最近の肌感としては半導体業界でも研削盤を使うケースがあり、設備が自動化されている分、「資格が要る」という認知が薄い企業も意外と多い。半導体や、その製造装置・材料を作る方にも認識していただきたいですね。
まとめ:実技は「砥石交換の練習」ではなく「試運転の再現性」をつくる
取材を通して浮かび上がったのは、実技の狙いが“手順を覚える”よりも、安全な試運転を成立させるための勘所を、設備条件に合わせて再現できるようにする点にあることだ。
砥石・フランジ・研削盤という3要素の安全をそろえ、適正確認から研削盤の点検、そして試運転までを一連で仕上げる。
ここが「実技」の核になる。
