――「第17の送出国」は、南太平洋から
イントロ:ニュースを“人事目線”で読み解くと…
2025年11月13日、
日本の法務省・外務省・厚生労働省と、フィジー共和国の雇用・生産性・労使関係省との間で、
技能実習制度に関する協力覚書(MOC)が署名・発効しました。
厚労省の公式発表では、この覚書の目的を
「技能実習生の送出しや受入れに関する約束を定めることで、日本からフィジーへの技能等の移転を適正かつ円滑に行い、国際協力を推進すること」
と説明しています。
つまり、フィジーがベトナム、フィリピン等と並ぶ“公式な送出国のひとつ”になった、ということです。
人事・受入れ現場にとっては、「新しい送り出し国が1つ増えた」以上の意味を持つニュースでもあります。
1. MOC締結で何が決まったのか?
● 2025年11月13日、東京で署名・即日発効
JITCO(国際人材協力機構)のニュースによれば、
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日付:2025年11月13日
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場所:東京
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当事者:
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日本側:法務省・外務省・厚生労働省
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フィジー側:雇用・生産性・労使関係省
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が、技能実習制度に関する協力覚書(MoC)に署名し、同日発効したとされています。
覚書のポイントは、ざっくり言うと:
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フィジー政府が、自国の送出機関を管理・監督すること
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日本側は、受入れ企業・監理団体が制度を適正に運用すること
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双方が、ブローカー排除や人権侵害防止のために情報共有・協力すること
といった、技能実習を“ちゃんとした制度として回す”ためのルール作りです。
2. フィジーは「第17の送出国」――アジア中心から“多角化”へ
厚労省の「技能実習に関する二国間取決め(協力覚書)」のリストを見ると、
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ベトナム
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フィリピン
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インドネシア
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カンボジア
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ミャンマー
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バングラデシュ
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ネパール
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インド
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スリランカ
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ラオス
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モンゴル
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ブータン
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ウズベキスタン
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パキスタン
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タイ
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東ティモール
…などと並んだ中に、新たに「フィジー」として記載されています。
これで技能実習のMOC締結国は17カ国目。
ほとんどがアジア諸国であり、南太平洋の島しょ国とのMOCはフィジーが初です。
つまり、
「送出国の地理的な多角化=人材プールの広がり」
という意味を持つ一手、と言えます。
3. もう来ている?「フィジー人技能実習生第1号」
少しおもしろいのは、
MOCの署名前から、フィジー人技能実習生の受入れが動き出している点です。
成田空港ビジネス(NAAB)などの発表によると、
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フィジーの職業訓練校 CATD(Centre for Appropriate Technology & Development) で自動車整備を学んだ卒業生2名が、
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「フィジー人技能実習生第1号」として2025年10月1日に来日し、
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監理団体の支援のもと日本での生活オリエンテーションを受け、
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同年11月1日から秋田日産自動車で技能実習生として就業を開始しています。
これは、フィジー政府・教育機関・日本側企業・監理団体が連携したパイロット的な新スキームとして位置づけられており、今後の本格的な受入れモデルにもなり得る事例です。
一方で、JITCOは同じニュースの中で、
「フィジー共和国の認定送出機関は、まだ決まっておりません」
とも明記しています。
つまり現在は、
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MOCという“国対国の枠組み”は整った
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一部ではモデルケースとなる受入れが先行スタート
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しかし本格的・大量の送り出しは、これから送出機関の認定や日本語教育体制が整ってから
という“立ち上がり期”にあると見るのが妥当です。
4. 「MOC=すぐ大量に来る」ではない ― 期待値の整理
● 制度の役割:量より「質とルート」を固める仕組み
MOCの条文や厚労省の解説を読むと、前面に出ているのは
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技能実習を通じた技能移転・人材育成
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不適正な送出し・ブローカーの排除
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関係機関間の情報共有と協力
といった“適正化”の側面です。
もちろん、結果的には
「安定した送り出しルートを作る」=「中長期的な人材確保につながる」
という狙いもありますが、
「MOCを結んだから、明日から人が大量に来る」わけではない
という点は、企業側として冷静に押さえておきたいところです。
● フィジーという国のサイズ感
フィジーの人口は約90万人規模と言われ、ベトナムやフィリピンのような“巨大な送出し国”とは、そもそもの分母が違います。
現実的には、
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自動車整備
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建設・電気
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宿泊・観光関連
など、一部分野で質の高い人材を少しずつ受け入れていくスタイルになる可能性が高いでしょう(具体分野は今後の調整次第ですが)。
5. 企業・監理団体が今からできること
「じゃあ、現場としては何をしておけばいいの?」という視点で、ざっくりToDoを整理してみます。
① 情報収集:まずは“公式ルート”を押さえる
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厚労省「フィジーとの協力覚書」ページ
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JITCO・OTITのフィジー関連ニュース
を、ブックマーク+社内共有しておくことから始めましょう。
ポイント:
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覚書の仮訳(日本語版)で「送出し」「受入れ」「費用負担」「トラブル時の対応」などの条文イメージを押さえる
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認定送出機関に関する続報や、説明会情報をウォッチする
② 自社にマッチしそうな分野・職種を考える
現時点では、自動車整備分野での先行事例が出ていますが、
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自社の事業分野
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フィジーの教育機関・職業訓練校の強み
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英語力やホスピタリティなどの特性
を踏まえ、**「こういうポジションならフィジー人材が活きるかもしれない」**という仮説を持っておくと、後々の打ち合わせがスムーズです。
③ 監理団体・受入れ企業としての“売り”を整える
今後、フィジー側でも
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どの監理団体・企業と組むか
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どの分野・地域に人材を送り出すか
を選ぶことになります。
送出国が多様化する一方で、日本国内の受入先間の競争も強まると考えるべきでしょう。
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賃金水準・手当
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日本語教育・キャリアパス
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寮・生活サポート
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受け入れ地域(都会か地方か)
などを整理し、「うちに来たら、こういう成長ができます」と説明できるパッケージを作っておくことが重要です。
6. 「フィジーMOC」をどう位置づけるか
最後に、今回のニュースをもう一度“俯瞰”してみます。
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2025年11月13日、日本とフィジーが技能実習のMOCを締結・即日発効。
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フィジーは、ベトナム等に続く17番目のMOC締結国であり、南太平洋では初の送り出し国。
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一方で、認定送出機関はまだ未決定で、本格的な制度運用はこれから。
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とはいえ、自動車整備分野では2025年10月にフィジー人技能実習生第1号が来日・就業開始しており、モデルケース作りはすでに動き出している。
要するに――
「新しい送り出し国が加わった」だけでなく、
「南太平洋という新たなエリアからのパイプをどう育てていくか」が問われ始めた
というタイミングです。
技能実習制度そのものは、数年後には育成就労制度への移行が予定されていますが、
フィジーとのMOCで築いた関係や送出しルートは、その先の制度にも資産として引き継がれていくと考えられます。
おわりに
「フィジーとの技能実習生受入れに関する協力覚書(MOC)締結」は、
ニュースとしては数行で終わってしまう話かもしれません。
しかし、人事・監理団体・現場担当者の目線で見れば、
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送出国の多角化
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南太平洋という新エリアとの協力
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モデルケースから学び、制度の立ち上げ期から関わるチャンス
という、**これからの外国人材戦略を考えるうえでの“小さくない一歩”**です。
「フィジー? うちには関係なさそう」と流してしまうか、
「せっかくなら、立ち上がりの段階から情報を押さえておこう」と一歩踏み込むか。
数年後に振り返ったとき、その差は意外と大きいかもしれません。
