――「1993年モデル」が終わり、「育成就労」への大転換へ
2027年4月1日、日本の外国人受入れの“標準形”が大きく変わります。
技能実習制度を発展的に解消し、新たに「育成就労制度」をスタートさせる改正法が成立・公布され、その施行日がついに「正式に」固定されたからです。
人事・現場担当者にとっては、
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「いつまで技能実習で人を採れるのか?」
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「新しい『育成就労』は、いつから本格的に動きだすのか?」
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「移行期間はどのくらいあるのか?」
といった点が最大の関心事だと思います。
このコラムでは、法改正の中身と時期/技能実習の“終わり方”/育成就労の狙いと実務ポイントを、できるだけわかりやすく整理します。
1. 何が「正式に決まった」のか
1-1 改正法:技能実習を「発展的に解消」、育成就労を創設
2024年の通常国会で、
**出入国管理及び難民認定法および技能実習法の一部を改正する法律(令和6年法律第60号)**が成立・公布されました(2024年6月21日公布)。
厚生労働省はこの改正について、次のように説明しています。
技能実習制度を発展的に解消し
人材育成と人材確保を目的とした「育成就労制度」を創設する
つまり、
目的が「国際貢献(技能移転)」だった技能実習から、
「人材の育成+人手不足分野の人材確保」を正面から掲げる育成就労へと、制度の看板自体を掛け替えるということです。
1-2 施行日:2027年4月1日と“確定”
改正法は当初、「公布から3年以内の政令で定める日」を施行日と定めていましたが、
その“いつか”が、2027年4月1日に固定されました。
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厚生労働省は「技能実習制度の見直しについて」の中で、
**「一部を除き施行日は令和9年4月1日」**と明記。 -
JITCOも「育成就労制度とは」のQ&Aで、
「育成就労制度の施行日は2027年4月1日です」と案内しています。 -
さらに、2025年10月1日付官報で、施行期日を定める政令(政令第340号)が公布されたことを、各専門サイトや実務向けニュースが報じています。
これで「いつ始まるか」は、完全に確定したと言ってよい状況です。
2. 技能実習制度は「約30年」で幕を閉じる
2-1 1993年に制度化、最長5年の“国際貢献”モデル
JITCOなどの解説によれば、
外国人技能実習制度は1993年に制度化されました。
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目的:開発途上国などへの技能移転による国際貢献
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期間:当初の仕組みを経て、最長5年の実習
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枠組み:
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監理団体(組合)+実習実施者(受入企業)
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「労働力の需給調整の手段として行ってはならない」と明記
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1993年スタート〜2027年の新制度施行までを見れば、
約30年以上続いた制度が、いよいよ終わりに向けて動き出したと整理するのが自然です。
3. とはいえ「2027年4月でいきなり消滅」ではない
ここが実務的には一番重要なポイントです。
3-1 経過措置:おおむね「2030年頃」までは並走
厚労省や実務向けの解説によると、
改正法施行後も**一定期間、技能実習と育成就労が併存する「移行期間」**が設けられる設計です。
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施行日(育成就労スタート):2027年4月1日
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移行期間のイメージ:
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2027年4月1日時点ですでに始まっている技能実習は、
1号・2号・3号それぞれの在留期間の上限まで継続可 -
新規の技能実習計画申請は、施行日からおおむね3か月(2027年6月末)まで開始する計画を対象に受付という見込み
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結果として、
概ね2030年頃までは「既存の技能実習生」が制度内に残り続けることになり、
「2027年3月末で技能実習が完全に消える」わけではありません。
より正確には、
2027年4月1日に「育成就労」の新規制度がスタートし、
その後数年かけて技能実習制度は縮小・終了していく
という、「段階的なソフトランディング」と理解しておくのがよさそうです。
4. 新制度「育成就労」は何を目指すのか
JITCOの公式ページは、育成就労制度をこう定義しています。
育成就労制度は、育成就労外国人が育成就労産業分野において就労(原則3年以内)することにより、
特定技能1号水準の技能を有する人材を育成するとともに、当該分野における人材を確保することを目的としています。
ポイントを整理すると、
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目的が二本立て:
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人材育成(特定技能1号レベルまで育てる)
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人材確保(人手不足分野の戦力として定着させる)
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期間:原則3年
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対象分野:特定技能制度の特定産業分野のうち、「就労を通じて技能を修得させるのが相当」な分野
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在留資格名:新たに「育成就労」
従来の「国際貢献」中心の建付けから、
「人手不足分野の人材育成・確保」を前面に出した制度へ――
これが、今回の“看板の掛け替え”の本質です。
5. 技能実習との違い:転籍の緩和など「現場に効く」変更点
JITCOの比較表をもとに、技能実習と育成就労の主要な違いをざっくり眺めてみます。
| 項目 | 技能実習制度 | 育成就労制度 |
|---|---|---|
| 目的 | 技能移転による国際貢献 | 人材育成+人材確保 |
| 在留資格 | 技能実習1号・2号・3号 | 育成就労 |
| 在留期間 | 最長5年 | 原則3年 |
| 転籍 | 原則不可(倒産等のやむを得ない事由のみ) | やむを得ない事由+一定要件を満たせば本人希望でも転籍可 |
| 日本語要件 | 介護以外は明示的要件なし | 就労開始時から日本語A1相当以上などの要件あり |
| 特定技能1号への移行 | 同一職種なら試験免除もあり | 試験合格が必須(技能+日本語) |
特に注目されるのは、やはり**「転籍(転職)の取り扱い」**です。
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技能実習:
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実習先の倒産や重大なハラスメント等、「やむを得ない事情」がない限り、原則として転籍不可
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育成就労:
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上記に加え、
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一定期間(分野ごとに1〜2年)同じ受入れ先で就労していること
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基礎級などの技能試験+日本語試験に合格していること
といった条件を満たせば、同一業務区分内で本人意向による転籍も可能になる方向です。
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「完全な自由転職」ではありませんが、
“待遇や育成環境が悪ければ、他社への移動も現実的な選択肢になる”制度設計に変わる、という意味では、現場へのインパクトは相当大きいと言えます。
6. 企業側にとっての実務インパクト
6-1 2027〜2030年は「二本立て」の混在期
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既存の技能実習生:
→ 経過措置のもと、最長5年の枠内でゴールまで走り切る -
新規の受け入れ:
→ 2027年4月以降は、原則として育成就労での受入れへシフト
この「二本立て」が3年前後続くため、企業はしばらくの間、
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技能実習のルールと監理団体との関係
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育成就労のルールと新しい監理支援機関との関係
を同時に回す必要が出てきます。
6-2 2026年度中に少なくともやっておきたいこと
① 受入スキームの棚卸し
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現在受け入れている技能実習生の人数・在留期間・1〜3号のステージ
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特定技能への移行予定者
を一覧化し、2027〜2030年までの「出口」を可視化する。
② 新制度で受入れ可能か「職種・分野」を確認
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育成就労は、特定技能分野のうち「国内での育成になじむ分野」に限定されるため、
現行の技能実習職種がそのまま全て残るわけではない点に注意。
③ 監理団体との中長期の相談
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監理団体が、新制度では**「監理支援機関」として許可を取り直す必要がある**ため、
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どの分野で、いつから、どの程度の受入れが可能か
を早めにすり合わせておくことが重要です。
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④ 労務・人事制度の見直し
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育成就労では、本人意向による転籍が条件付きで可能になるため、
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賃金水準
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評価・昇給の仕組み
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日本語・技能の教育体制
を他社と比較しても**「来てくれた人が残りたいと思える環境」**にしておかないと、転籍リスクが顕在化します。
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7. 「名称変更」ではなく、考え方から変わる大改革
最後に、この改革の“トーン”をもう一度整理しておきます。
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名称だけの変更ではない
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目的:国際貢献 → 人材確保+育成
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転籍:原則不可 → 条件付き許容
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日本語要件・試験:明確化・強化
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時間軸も長い
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2024年 法改正成立・公布
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2027年 育成就労スタート
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2030年頃まで、技能実習と並走しながら完全移行へ
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つまり、
「1993年モデル」を完全に作り替える、10年がかりの大工事と言っても過言ではありません。
まとめ:今から“移行3か年計画”を描いておく
技能実習制度の廃止・新制度開始時期が正式決定した今、
企業にとって重要なのは、ニュースを「知る」ことではなく、そこから自社の移行シナリオを描き始めることです。
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2027年4月1日から3年前後の移行期間をどう使うか
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どのポジションを技能実習で締めくくり、どこから育成就労に切り替えるか
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特定技能・正社員登用も含めたキャリアパス全体をどう組み立てるか
このあたりを**2026年度中に一度“絵にしてみる”**だけでも、
新制度が始まったときの混乱と手戻りは、かなり減らせるはずです。
「技能実習の終わり」は、同時に
「育成就労・特定技能・正社員登用をつなぐ“新しい受入れ戦略”の始まり」
そう捉えて、少し早めに社内の議論をスタートしてみてください。
