――「5年で帰国」しかなかった人たちに、1年の“セーフティネット”
「特定技能1号は原則5年で終わり」「5年の間に特定技能2号に上がれなければ帰国」――。
これまで、多くの外国人材と受け入れ企業が、この“5年の壁”に悩まされてきました。
ところが今、少し空気が変わり始めています。
特定技能2号の試験に不合格でも、条件を満たせば1年延長が認められる特例が動き出したからです。とくに外食業・飲食料品製造業では、具体的な運用が公表され、現場レベルの話になってきました。
このコラムでは、「どんな人が対象なのか」「企業として何を準備すべきか」「制度全体の流れとしてどう捉えるべきか」を整理してみます。
1. そもそも「5年の壁」とは?
在留資格「特定技能1号」は、通算在留期間が原則5年以内というルールがあります。一方で「特定技能2号」には在留期限の上限がなく、家族帯同も可能なため、1号→2号へのステップアップは、外国人本人にとっても企業にとっても大きな目標でした。
しかし現実には、
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仕事と試験勉強の両立が大変
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日本語・専門知識ともに、合格ラインまでもう一歩届かない
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試験タイミングと「5年満了」のタイミングが合わない
といった事情から、実力はあるのに2号試験に間に合わず帰国というケースも少なくありませんでした。
2. 新ルールの骨格:「不合格でも最大1年延長」へ
こうした状況を踏まえ、政府は2025年3月の特定技能基本方針の閣議決定と、9月30日の省令・運用要領の改正を通じて、通算在留期間の扱いを見直しました。
入管庁の「通算在留期間」の公式ページによると、
特定技能1号は原則5年であるものの、次のような場合には「当分の間、5年を超える在留に相当の理由がある」として、最長6年まで在留延長を申し立てできる枠が設けられました。
代表的なものは:
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コロナなどやむを得ない事情で働けなかった期間
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産前産後・育児・病気・けがの休業期間
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そして今回のテーマである
「特定技能2号評価試験等に不合格となった1号特定技能外国人」
です。
つまり、2号試験に一度落ちたから即「さようなら」ではなく、一定要件を満たせば最大1年、通算6年まで日本で働き続けられる道が開かれた、というのが今回のポイントです。
3. 外食業・飲食料品製造業の「8割ルール」と対象者
この新しい枠組みを、いち早く具体化したのが外食業と飲食料品製造業です。農林水産省の公式資料では、次のような条件が明示されています。
3-1 基本ルール
外食業・飲食料品製造業で特定技能2号技能測定試験に不合格となった1号特定技能外国人のうち、
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合格基準点の8割以上の得点を取っている こと 等
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かつ、通算在留期間5年を超えて在留することについて「相当の理由」があると入管庁が認めた場合
には、
最長1年間、通算在留期間5年を超えて在留することができる
とされています。
3-2 「いつの試験結果」から対象になるのか
ここは実務上とても重要です。
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外食業・飲食料品製造業については、
**「発行日が2025年6月30日以降の試験結果通知書」**が対象 -
この日より前に発行された古い通知書は、延長の対象外
と明記されています。
なお同じタイミングで、2号試験の通知書も「合格通知書」から**「試験結果通知書(得点・合格水準点を記載)」に変更されました。これにより、“8割以上かどうか”を客観的に証明できるようにした**わけです
3-3 さらに細かい条件
入管庁や各種解説によれば、外食・飲食料品製造に限らず共通する要件として、概ね次の3本柱が挙げられます。
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試験成績要件
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2号移行に必要な全ての試験で、合格基準点の80%以上を取っていること
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本人の誓約
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合格を目指して再受験を継続すること
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合格したら速やかに特定技能2号への在留資格変更を申請すること
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それでも合格できなかった場合は、速やかに帰国すること
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受入機関(雇用主)の体制
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引き続き雇用する意思がある
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試験合格に向けた教育・研修や支援体制を用意している
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そして何より大事なのは、**延長は自動ではなく「入管が個別審査で認めた場合のみ」**という点です。ここを勘違いすると「不合格でも6年までは必ずいられる」と誤解されてしまうので注意が必要です。
4. 企業側の視点:チャンスを活かすも、ムダにするも運用次第
「不合格でも最長1年延長できる」と聞くと、
「じゃあ少し気楽に構えてもいいかな」と思いがちですが、実際には企業側の準備と運用が成否を分ける制度です。
4-1 今すぐやっておきたいこと
① 対象者の洗い出し
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特定技能1号で在留4年目以降に入る人のリストアップ
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2号試験の**受験状況・点数(わかる範囲)**を把握
② 試験スケジュールと「5年満了」の突き合わせ
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在留カードの満了日から逆算して半年〜1年前に、受験計画を立てる
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5年満了の3か月前までに延長申請を出せるよう書類準備を前倒し
③ 教育・支援体制の見直し
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業務内研修だけでなく、**試験対策の支援(模擬試験・日本語学習など)**を明文化
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「合格したら2号でこのポジションへ」というキャリアパスを本人と共有
4-2 逆に注意したいポイント
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「とりあえず1年延ばす」ための制度ではない
→ 伸ばす目的はあくまで2号合格への“ラストチャンス”を与えること。 -
延長ありきで、人員計画を組まない
→ 入管の裁量が入るため、必ず認められるとは限らない。 -
書類の不備でチャンスを逃さない
→ 対象となる試験結果通知書の発行日・様式・得点表示を必ず確認する。
5. 外国人本人にとっての意味:1年という「猶予」と「約束」
この延長措置は、本人にとっても決して“救済だけ”ではありません。
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8割以上取れていれば、「あと少し」で合格というライン。
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1年延長は、「その少し」を埋めるための時間をプレゼントする代わりに、
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再受験の努力
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合格したら速やかな2号への移行
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再度不合格なら潔く帰国
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といった約束を求める仕組みになっています
言い換えると、
「本気で2号を目指す人に、とことん付き合う」
制度であり、
「何となく延長したい」
というニーズには応えない制度です。
6. まとめ:制度は動いた。次は現場の“使い方”次第
特定技能試験不合格者への在留延長措置は、
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特定技能1号=原則5年
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ただし、一定の条件を満たす2号試験不合格者には最長6年までの延長も認め得る
という、新しい“逃げ道”ではなく**“挑戦のための猶予”**です。
外食業・飲食料品製造業では、この枠組みがいち早く形になり、
**「合格基準点の8割以上」「2025年6月30日以降の試験結果通知書」「最長1年延長」**という、具体的なルールが見えてきました。
あとは、企業と本人がこの1年をどう使うか次第です。
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企業が**「せっかくの人材を、あと一歩2号まで育て切る」**のか、
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それとも、制度の存在を知らずに**“5年の壁”で手放してしまう**のか。
制度はすでに動き出しています。
情報を知っているかどうかが、そのままチャンスの差になる――
そんなフェーズに入っていると言えるでしょう。
