[製造業×特定技能2号] 外国人管理職の育成ガイド

――「5年で帰す人材」から「現場を任せる人材」へ

「人は足りない。だけど本当に足りないのは“管理職クラス”だ」
多くの製造業の現場からそんな声が聞こえてきます。

その“穴”を埋める新しい選択肢として、いま本格的に動き出しているのが
特定技能2号を活用した外国人管理職の育成です。

2023年6月の閣議決定で、特定技能2号の対象が
建設・造船の2分野から一気に11分野へ拡大し、
その中に工業製品製造業・飲食料品製造業・外食業が加わりました。

この記事では、製造業の人事・工場長、所謂管理職の方向けに、

  • 特定技能2号とは何か

  • どんな外国人が「工場長・職長候補」になり得るのか

  • 自社でどのように育成ルートを設計すべきか

を、最新データと制度要件を踏まえて整理します。


1. そもそも特定技能2号とは? ― “長期定着ルート”の正体

まずは、1号との違いをざっくりおさらいです。

外務省の制度概要では、特定技能を次のように整理しています。

  • 特定技能1号

    • 「相当程度の知識又は経験」を要する業務

    • 在留期間:通算 上限5年

    • 家族帯同:基本的に不可

  • 特定技能2号

    • 「熟練した技能」を要する業務

    • 在留期間:更新の上限なし(実質無期限)

    • 家族帯同:条件を満たせば配偶者・子の帯同が可能

経産省の資料でも、2号は

長年の実務経験で身につけた熟達した技能を持ち、
監督者として現場を統括しつつ仕事を進められる人材

と定義されています。

そのため実務上、特定技能2号はよく

「事実上の長期定着(永住)ルート」

と呼ばれます。
もちろん永住許可は別手続きですが、「5年で必ず帰国」だった従来の前提が、
“ずっと日本で働き続けられる人材”に変わるインパクトは非常に大きいと言えます。


2. 2号の対象は11分野、そのうち“主戦場”は製造系3分野

2023年6月9日の閣議決定で、特定技能2号の対象分野は次のようになりました。

【特定技能2号 対象11分野】

  • ビルクリーニング

  • 工業製品製造業

  • 建設

  • 造船・舶用工業

  • 自動車整備

  • 航空

  • 宿泊

  • 農業

  • 漁業

  • 飲食料品製造業

  • 外食業

介護などを除く、ほぼすべての“現場系”分野が対象になったイメージです。

2号の人数はまだ少数だが、製造系で急増中

出入国在留管理庁の最新統計(令和7年6月末、速報値)をもとに農水省がまとめた資料によると、
特定技能2号全体の在留外国人数は3,073人。分野別の内訳は次の通りです。

  • 飲食料品製造業:821人

  • 建設:561人

  • 農業:519人

  • 外食業:510人

  • 工業製品製造業:410人

  • 造船・舶用工業:146人

  • ビルクリーニング:5人 …など

まだ**「数としては少数精鋭」**ですが、
2号の中核を担っているのが

飲食料品製造業・外食業・工業製品製造業

という“製造×サービス”系の分野であることが分かります。


3. 「外国人管理職」とはどんな人材か ― 分野ごとの2号像

2号の要件は分野ごとに定められていますが、
**共通しているキーワードは「指導・監督」「工程・店舗管理」「2〜3年以上の実務経験」**です。

3-1 飲食料品製造業:工程管理+衛生管理のプロ

農水省の基準では、飲食料品製造業の特定技能2号は次のように定義されています。

  • 要件(抜粋)

    • 「飲食料品製造業特定技能2号技能測定試験」に合格

    • 複数の作業を指導しながら作業に従事し、工程を管理する者として2年以上の実務経験

  • 人材イメージ

    • HACCPに沿った衛生管理ができる

    • 食中毒菌・異物混入の基礎知識

    • 衛生的な取り扱い・設備の衛生管理

つまり、単なるライン作業者ではなく、

「衛生も品質も分かった“工場長等の管理職”」

を前提にした要件になっています。

3-2 外食業:N3+副店長クラスのマネジメント

出入国在留管理庁や試験実施団体の整理によると、外食業分野の2号は:

  • 必要な試験

    • 「外食業特定技能2号技能測定試験」合格

    • 日本語能力試験 JLPT N3以上

  • 実務経験

    • 複数の従業員を指導・監督しながら、店舗管理を補助する者として2年以上

    • 副店長・サブマネージャークラスを想定

こちらも、狙いは明確に

「外国人リーダー・副店長層の育成」

です。

3-3 工業製品製造業:熟練工+ラインリーダー

そして本題の工業製品製造業の特定技能2号
経産省と製造分野ポータルサイトでは、2号人材を次のように定義しています。

  • 人物像

    • 実務経験により身につけた熟練した技能を持つ

    • 現場の作業者を束ねて指導・監督できる人材

  • 在留資格取得の条件(一例・評価試験ルート)

    • ビジネス・キャリア検定3級(生産管理プランニング/オペレーション)合格

    • 製造分野特定技能2号評価試験(機械金属加工・電気電子機器組立て・金属表面処理のいずれか)合格

    • 日本国内の製造現場で3年以上の実務経験

これを現場の言葉に置き換えると、まさに

「外国人工場長・班長・将来の係長候補」

を制度で明確に位置づけたもの、と言えます。


4. データで見る「2号ライン長」のポテンシャル

先ほどの農水省資料では、特定技能1号の人数も分野別に掲載されています。

  • 工業製品製造業

    • 特定技能1号:51,063人

    • 特定技能2号:410人

つまり、

製造現場には5万人超の1号人材がいて、
そのうちまだ約400人しか“工場長クラス(2号)”になっていない

という状況です。

飲食料品製造業も同様で、

  • 特定技能1号:84,071人

  • 特定技能2号:821人

と、「工場長候補のプール」は既にかなり厚いのに、
2号への橋渡しはまだこれから、という段階。

製造業の企業側から見ると、

「自社の1号・元実習生の中から、
2号管理職を計画的に育てたところが先に優位に立つ」

と言っても良いフェーズに入っています。


5. 自社で作る「外国人管理職育成ロードマップ」

では、製造業の現場で特定技能2号ライン長を育てるには、何から手を付ければよいのでしょうか。

ステップ1:自社が求める「管理職像」を言語化する

まずは、経産省が示す2号人材像をベースに、自社なりの具体像に落とし込みます。

 

例:

  • 作業

    • 主要設備の段取り替えが一人でできる

    • 不良発生時に原因を切り分け、応急対応の指示が出せる

  • 管理

    • 5〜10名程度のチームの作業指示・進捗管理

    • 品質・安全ルールの徹底(KY・指差し呼称・ヒヤリハット共有)

  • コミュニケーション

    • 日本人と外国人の混成チームでの指示出し

    • 日報・改善提案を日本語で書けるレベル

「熟練した技能+指導・監督」が2号のキーワードなので、
スキルマップも**“作業スキル”と“マネジメントスキル”を分けて定義**するのがおすすめです。

 

ステップ2:候補者プールの“棚卸し”

次に、次の層から候補者になり得る人材をリストアップします。

  • 技能実習2号・3号修了者で、現在特定技能1号で働いている人

  • 特定技能1号で2〜3年以上勤務し、すでにリーダー的な役割を担っている人

  • 日本語レベルが高く、将来的にライン管理を任せたい人

人事だけでなく、現場の班長・係長に

「この中で、日本人の若手に近いレベルで任せられそうな人は誰?」

と聞き、**“現場評価による候補リスト”**を作ると、後の投資対象が明確になります。

 

ステップ3:3年スパンで「育成+実務経験」を設計

工業製品製造業の2号では、日本国内製造現場で3年以上の実務経験が要件です。

ここでいう「実務経験」は、単なる作業年数ではなく、
ラインリーダー的な役割を担った経験を証明できる形で積ませておくことが重要です。

たとえば:

  • 1年目:

    • 作業者として全工程を一通り経験

    • 日本語+安全・品質教育の基礎

  • 2年目:

    • サブリーダーとして新人OJTを担当

    • 簡単な日報・不良報告書を日本語で作成

  • 3年目:

    • 小さなラインや班のリーダーを経験

    • 月1回の改善ミーティングで進行役をさせる

こうした役割と実績を、評価シートや人事記録に残しておくと、
後で2号申請時の「指導・監督経験」の証拠としても活用できます。

ステップ4:試験対策と“日本語+管理”教育をセットで

製造分野2号の取得には、

  • ビジネス・キャリア検定3級(生産管理系)

  • 製造分野特定技能2号評価試験

  • (別ルートなら技能検定1級)

といったかなりハードルの高い試験が必要です。

試験は「日本語だけで実施」されるため、

  • N3〜N2レベルの日本語力

  • 生産管理・品質管理の専門用語の理解

がないと合格は難しくなります。

おすすめは、「試験対策」と「現場の管理教育」を一体で設計すること。

  • 現場の生産管理ミーティングで使う用語を、試験範囲とひも付ける

  • QC七つ道具・4M・5S・カイゼンなど、実務と試験の両方で出てくる概念を重点的に教える

  • 日本語教育も、雑談より「現場の報告・指示・改善」に必要な表現に絞る

こうすることで、試験勉強=現場力の底上げになり、
現場の日本人スタッフからの納得感も得やすくなります。

ステップ5:「2号になった後」を見据えた処遇設計

特定技能2号は、

  • 在留に上限がない

  • 家族帯同も可能

という“強いカード”を持っています。

 

 

逆に言うと、

2号を取った途端に他社へ転職…

というリスクも、現実的になります。

  • 日本人の班長・係長と同じ等級・賃金テーブルに載せるのか

  • 役職手当・技能手当の基準をどうするか

  • 家族帯同した場合の住居・生活サポートをどう考えるか

といった点を、2号申請前に社内で決めておくことをおすすめします。


6. まず何から始める? 今日からできる3ステップ

最後に、「明日から何をするか」のレベルに落とし込んでみます。

  1. 現状把握

    • 自社の技能実習・特定技能1号の人数

    • 在留期限・職種・配置ライン
      を一覧にして、**2号候補になり得る人材を“見える化”**する。

  2. 管理職像とスキルマップの作成

    • 経産省が示す2号人材像をベースに、
      「うちの工場長・職長なら、何ができてほしいか」を棚卸し。

    • 日本人管理職の評価項目とも比較し、外国人にも同じ物差しを適用できるよう整理する。

  3. パートナー探しと試験情報のキャッチアップ

    • 製造分野2号試験(SSWM)のスケジュールや、ビジネス・キャリア検定の実施日程を確認。

    • 行政書士・教育機関・社内研修担当など、一緒に育成プログラムを組めるパートナーを押さえておく。


おわりに:管理職を「採る」から「育てる」時代へ

特定技能1号がスタートしてから数年。
「とりあえず人手を確保するための制度」として使ってきた企業も多いはずです。

しかし、特定技能2号が本格的に動き出し、
製造分野でも**「外国人管理職」を制度が前提として求め始めた**今、

“5年で帰る作業者”を集める発想から、
“10年後の現場を任せるリーダー”を育てる発想へ

と、会社のスタンスを切り替えるタイミングが来ています。

自社の工場で、
最初の「特定技能2号工場長」が誕生するのはいつか。

 

その逆算から、今日の一歩を決めてみてください。

 

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