――「見たつもり」をなくす、雇用現場の標準手順を整える
直近1カ月でも、偽造在留カード(在留カード等)に関する摘発が相次いでいます。たとえば北海道警は9月4日付の「昨日の出来事」で、偽造在留カード所持による入管法違反の再逮捕を公表しました。現場の実務としては、「原本(実物)を確実に確認する」ことを起点に、ICチップの読取りや番号照会まで重層的にチェックする仕組みづくりが急務です。
なぜ「原本」か――法的リスクと行政の求める確認水準
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不法就労助長罪のリスク
事業主が不法に就労させた場合、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(併科あり)。しかも「在留カードの確認をしていない等の過失」でも処罰対象となり得ると警視庁は明示しています。“見たつもり”やコピー頼みは通用しません。
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雇用主の確認義務(厚労省)
「外国人雇用状況の届出」に際し、在留カード又は旅券の“提示”を求め、届出事項を確認するのが原則。写しの添付は不要ですが、提示=原本現認を前提とした運用が示されています。
結論:雇用時・入場時は実物を手に取って確認。そのうえでIC読取+番号照会を重ねることが、警察・厚労省・入管庁のガイダンスに整合する実務です。
現場で使える「5ステップ標準手順」
① 原本現認(必須)
コピーや画像提示だけではなく、在留カードの実物で、**氏名・在留資格・在留期間・就労制限欄(裏面の資格外活動許可含む)**を確認。パスポート原本の提示で本人同一性の裏取りを行うのが安全です。
② ICチップ読取(スマホ/PCで)
入管庁の**「在留カード等読取アプリ」でIC内情報と券面の一致**を確認。目視では見抜けない精巧な偽造に対して、有効な“二層目の検証”になります。読取不能や不一致は即座に警戒。
③ 番号の失効照会(補助線)
「在留カード等番号失効情報照会」に番号と有効期間を入力して失効の有無を確認。ただし注意点――結果は有効性の“証明”ではありません。“実在番号の悪用”もあり得るため、照会単独で真正保証は不可。あくまで原本現認+IC読取の補助と位置づけます。
④ 就労適法性の照合
在留資格と就労内容・就労時間の整合を、人事・配属現場の両方で確認(例:留学は原則週28時間以内の資格外活動許可が必要、など)。配置転換や請負・派遣先変更の都度やり直す運用に。
⑤ 記録化と二重チェック
確認日・確認者・確認方法(原本現認/IC読取/番号照会の結果)・判断メモを台帳化。人事と現場管理の相互チェックで“見落としの穴”を塞ぎます(個人情報の保管・アクセス権限は最小化)。
目視チェックの勘所(“1秒の違和感”を逃さない)
入管庁の公式資料には、在留カードのホログラム、色変化、透かし(「MOJ」文字)など偽変造防止要素が具体例とともに示されています。明暗や角度を変えて光学的変化を確認する“クセ”を、受付・人事・現場監督者に共通言語として浸透させましょう。
よくある“NG運用”と対策
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NG:コピーやスマホ画像だけで雇用判断
→ 対策:原本現認が前提。読み取りアプリ→番号照会まで連続動作に。 -
NG:一度確認したら放置(更新忘れ)
→ 対策:在留期間満了の30~60日前に自動リマインド/更新証跡の再確認。 -
NG:配置転換・現場入場時に再確認しない
→ 対策:入社時・配置転換時・契約更新時を“再確認の三大タイミング”に固定。 -
NG:番号照会だけで安心する
→ 対策:入管庁も**「照会結果は有効性の証明ではない」**と明記。原本+ICが主軸。
経営リスクの“見える化”
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法的リスク:不法就労助長罪(3年以下の拘禁刑/300万円以下の罰金/併科あり)に加え、過失でも処罰対象となる可能性。法人にも罰金刑が科され得ます。
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運用リスク:監督官庁・警察対応、取引先審査、監査・入札での信用毀損。
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対策の肝:“原本→IC→番号”の三層チェックを標準業務に。二重チェックと台帳化で恒常運用に落とし込む。
これは“対岸の火事”ではない
偽造在留カードは、製造・販売の摘発や所持・行使での逮捕が継続的に報じられる目に見えるリスクです。北海道警の再逮捕公表のように、地域単位でも事案が可視化されています。「うちに限って…」ではなく、仕組みで守る発想に切り替えるべき時期です。
今日から変えられる、最小セット
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原本現認の徹底(受付・人事・現場責任者の三者に役割付与)
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IC読取アプリの常備(スマホ・PC双方で運用手順を整備)
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番号失効照会のルーティン化(“証明ではない”注意書きも教育)
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台帳テンプレの全社配布(確認者・方法・結果・次回期限を一枚で)
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三大タイミング(入社/配置転換/更新)で再確認のルール化
参考(一次・公的情報)
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北海道警「事件・事故情報、昨日の出来事」:9/4付で偽造在留カード所持→再逮捕を公表。(Hokkaido Police)
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警視庁「外国人の適正雇用について」:原本確認、過失でも処罰対象、罰則を明示。(Tokyo Metropolitan Police Department)
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入管庁「在留カード等読取アプリ」:IC・券面突合で偽変造確認。(Ministry of Justice)
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入管庁「在留カード等番号失効情報照会」:**“有効性の証明ではない”**と注意喚起。(Lapse Immi)
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厚労省「外国人雇用状況の届出」:在留カード又は旅券の提示→届出事項確認。(Ministry of Health, Labour and Welfare)
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入管庁資料「『在留カード』及び『特別永住者証明書』の見方」:ホログラム・透かし等の確認ポイント。(Ministry of Justice)